Live Diary

2016年

10月

30日

2016.10.30.KIRINJI@品川ステラボール

アルバム『Neo』を8月にリリースしたのを受けてのツアー、その最後から2番目の公演。    

印象をひと言で言えば、「いよいよライブ・バンドという感じになってきたなあ」ということになる。堀込高樹のMCの言葉を借りれば、「いろんなメンバーがメイン・ボーカルを担当するようなグループにしたくて」新生KIRINJIが生まれたということだが、ボーカルだけでなく、演奏楽器も千ヶ崎学がベースをエレキとウッドの持ち替えに加えてトロンボーン、コトリンゴはエレピとシンセベース、弓木英梨乃がエレキギターとヴァイオリン、田村玄一がスティールギターとスティールパン、それにバンジョー、そして堀込はエレキギターとアコギ、そしてリコーダー、というふうにいろいろ持ち替えて多彩なアンサンブルを披露。その多彩さを人力でまかなおうとする姿勢がライブ・バンド的だと感じたわけだが、個人的には弓木のギター・カッティングが心地よく、これからのKIRINJIライブは彼女のカッティングを中心に楽しむことになりそうだ。もちろん、多彩でありながらも、しっかりKIRINJIサウンドとしてグリップされているのは言うまでもなく、だからアップなナンバーはしっかり盛り上がり、メランコリックな曲ではちゃんとしみじみする。端正なレコーディング音源とのコントラストがいっそう際立って、KIRINJI音楽の楽しみがいっそう深まった夜だった。

2016年

7月

20日

2016.7.20.GOING UNDER GROUND@新代田FEVER

2016年初めてのワンマンである。    

8月にリリースされるニュー・アルバムからも何曲か披露された。が、個人的にはアタマの3曲、「the band」「グラフティー」、そして「凛」でとりあえず納得してしまった。演奏の部分では、ちょっとガタガタしたところが幾分あったし、松本素生のボーカルも十分とは言えない場面があった。それでも、全体を通して、真っ直ぐなエネルギーにあふれていたし、もちろんつまらない曲は1曲もない。アンコールの1曲目に披露した生ギターのストロークで始まるアーシーな新曲も印象的だった。そして、このバンドを見続けることの醍醐味は例えば♪おおげさに広がる未来/所在なく笑った後で/僕は今日 大人になる/そんな夜を忘れないで/心にいつでも星を/雨が止んで霧が晴れて/かすかな光がさす♪という歌詞を僕らもまた実感として味わいながら時を重ねられることだ。ニュー・アルバムが大いに楽しみである。    

2016年

5月

15日

2016.5.18.the pillows@赤坂BLITZ

アルバム『STROLL AND ROLL』を携えてのツアー、その4本目である。

新作は、5人のベーシストが参加しているというのが話題のひとつだったから、その楽曲たちを当然ひとりのベーシストが弾くことになるツアーではそういうアンサンブルになるのかな?というのをひとつの注目点として臨んだら、あろうことか、この日はベース周りの具合がどうも良くなかったようで、ローディーが演奏中に何度か出てきて、ベース・アンプに耳を当てたりベーシストの足元の機材を確認したりしていた。加えて、この日は席がちょっと極端な位置だったせいもあり、前半はちょっと落ち着かない感じで見ていた。

それでも、新作の基本的なモチーフとして「楽しい気分でツアーにまわりたい」というのが思いがあったと話していたインタビューで話していた通り、全体としては楽しいライブになった。それは、魂の瞬発力みたいなものを生かして「できるだけ速く、できるだけ遠くへ」というキリキリした思いのもとで突き進む感じではないという意味で、だからいつにも増して彼らの楽曲のバラエティーが楽しめることにもなったと思う。

ちなみに、メンバー紹介の楽しいやりとりを引き取って始まった曲は、多分ちょっと想定よりテンポが速かったんじゃないかという気がする。でも、そのおかげで、その次の曲のたっぷりとしたイントロがいっそうかっこよく感じたから結果オーライか。いずれにしても、メンバーがライブを楽しんでる感じまで含めて、ポジティブなエネルギーを真っ直ぐに放射してくるステージだった。

2016年

4月

01日

2016.4.1.GRAPEVINE@赤坂BLITZ

アルバム『BABEL,BABEL』を携えてのツアー、その初日である。

全体の印象としては、アンチ・ドラマチック志向がいよいよ進んでいるということ、それでも根本的にはロマンチックな音楽だから、胸にキューッとくる感じがじんわり忍び寄ってくるように感じられることは憶えておこう。特に、新作の曲でアッパー系の曲が音源よりもテンポが遅く演奏されたのは印象的だった。曲の終わり方も、いくつかの曲では敢えてオーディエンスの気持ちを宙づりにすることを狙っているようなアレンジだった。

もっとも、その仕掛けがすべてつつがなく執り行われたというわけでもなくて、そのあたりはやはり初日っぽいと言うべきか。逆に言えば、今日のアレンジを隅から隅まで隙なくやられたらどんな気持ちになるんだろう?と思う。

というわけで、ツアー・ファイナルへの期待はやはり高まってしまう初日のステージだった。

2014年

4月

05日

2014.4.5. the pillows@日本青年館

“日本青年館にライブを見に行くのはいつ以来だろう?”と考えながら、千駄ヶ谷駅から歩いたのだが、青年館の前までやって来たところでも、ついに思い出せなかった。

1980年代には、いろんなアーティストが初めてのホール・コンサートの会場としてここを使ったものだが、the pillowsは25年目にして初めてとのこと。というわけでしんちゃんがMCで「日本中年館へようこそ」と叫んで大いにウケたわけだが、ここは2020年の五輪開催に向けて、来年には取り壊されてしまうそうなので、彼らにとっておそらく最後の青年館ライブである。

NEVER ENDING STORY“Do You Remember The 2 nd Movment”と題して名古屋、大阪、東京をまわるスペシャル・ツアーの最終日。“2 nd Movement”とは1994年から96年の「第2期」楽曲ばかりを集めるということで、聴こえてくる音楽はソウルやジャズの要素を取り入れた、“渋谷系”という懐かしい言葉も思い出させるサウンドだが、その時期は彼らのキャリアのなかでは、ある種の混迷期でもあったせいか、そこには感傷的な甘酸っぱさが漂っている。とは言っても、印象的なメロディーと詩的なロマンティシズムを感じさせる歌詞という山中さわお作品の特徴はもちろんちゃんと備えていて、だからこそ山中が冗談めかして話した「メンバーもみんなも拭いきれない違和感」などライブの最後には確かに霧散してしまったのだった。それは、埋もれていた佳曲に出会う時間でもあったが、その新しい出会いは現在のthe pillowsアレンジで聴いてみたいという新しい欲望をかき立てる時間でもあった。

こうした企画性の強い内容であってもちゃんと「Future」という新曲(厳密に言えば未発表曲)を用意してくるあたりは山中らしいが、来週からは正真正銘の新曲レコーディングに入るという。このツアーは、彼ら自身にとっては、やはり次なる一歩への意欲をかき立てる大切な時間であったに違いない。

01.LIBERtY

02.恋のスパイに気をつけろ

03.Sha-la-la-lla

04.モノクロームラバーズ

05.エンゼルフィッシュ

06.Sunday

07.ガールフレンド

08.僕でいられるように

10.TONIGHT

11.Future

12.アムネジアの日記

13.開かない扉の前で

14.THE KILLING FIELD

15.Tiny Boat

16.DAYDREAM WONDER

17.Bye Bye Sweet Pain

18.Movement

[ENCORE]

01.屋上に昇って

02.NAKED SHUFFLE

[DOUBLE ENCORE]

01.TOY DOLL

02.Primer Beat

 

2014年

3月

30日

2014.3.30.  田島貴男@さくらホール

去年に続く弾き語りツアー、そのファイナルのステージだ。

序盤は、新調したというジャズ・ギターを抱え、本人曰く「40過ぎて、いきなりバイクの免許を取る人がいますけど、ああいう感じですよね。人生でやり残したことを始めるっていう」ということで、先生について習い始めたというジャズ・マナーの演奏によるパート。まあ、本人が「ジャズ・ビギナー」と称したのもあながち謙遜ではない感じだったが、ステージが進んでいくなかで、そのジャズ・ギターと、リゾネーター・ギター、ワイゼンボーン・ギターを曲ごとに持ち替えて演奏する姿を見ていて、80年代末に渋谷公会堂で見たライ・クーダーとデビッド・リンドレー2人だけのステージを思い出した。あのときは、2人を取り囲むように様々なタイプのギターが並び、それをまさに曲ごとに二人がそれぞれ持ち替えて演奏していた。この日のライブで聴こえてきた音楽も、その二人のステージに通じるもので、それはアメリカ音楽の歴史に立ち入って、ジャズやカントリー・ブルース、あるいはラグタイムといったスタイルを踏まえながら、濃厚な情感を描き出しと同時に深い郷愁を感じさせるものだった。古田たかし40周年記念ライブで民生が「接吻」を歌ってくれたお返しだと言って披露した「野ばら」が個人的には大いに盛り上がったが、ダブルアンコールで歌った「夜をぶっとばせ」にはあらためて“いい曲だなあ”と思わせられた。

2013年

12月

29日

2013.12.29. 黒沢健一@東京グローブ座

黒沢ファンにとってはすっかり恒例となった感が強い年末のグローブ座公演。開場時間のロビーで話をするお客さんたちの表情は例えば年に一度の同窓会での再会のシーンのようで、かく言う僕もこの公演を1年の最後のライブにして数年が経った。

“Rock’n Roll Band Without Electricity”と題したこの日は、今年ニュー・アルバムを携え全国ツアーを行ったバンドにヴァイオリンを加えた編成でエレクトリックでない楽器を演奏する 、いわゆるアンプラグド・スタイルでのステージとなった。2013年は彼にとって4年ぶりにバンド編成でツアーを行った年だから、その締めくくりにはやはりそのバンドとステージに立つのが相応しいし、かと言ってそのままバンドで演奏すればツアーのアンコールのようになってしまう。しかし、いつも“次の黒沢音楽”を予感させるような演奏を披露してきたこのグローブ座公演の性格を考えれば、ヴァイオリンを加えたアンプラグド・スタイルというのはじつに興味深く、そして示唆的とも言えるだろう。

ステージが進んでいくなかで、演奏の編成はいろいろな組み合わせで行われ、しかし一貫しているのは楽曲の骨格をオリジナル・バージョン以上に印象的に表現してみせるというところ。アンプラグド・スタイルだから、単純にメロディーやコード感が聴き取りやすくなっているわけだが、そうしたスタイルが与える印象以上に個々の楽曲の個性を押し出す演奏ぶりがおそらくは現在の黒沢の意識を象徴しているのだろう。先のバンド・ツアーのファイナル公演の印象とも重なるその姿勢は“次の黒沢音楽”がこれまで以上に楽曲主義に向かうことを予感させて、なんともうれしいステージだった。

ところで、この日もスマホでの撮影/録画がOKだったわけだが、この日のように椅子席でゆったり聴くような状況だと、先のツアーのとき以上に撮影のことでなにやらワサワサしている人のことが気になってしまう。僕の個人的な問題なのかもしれないが、”録音フリー/撮影フリー”問題については2014年にはさらに考えることになるのかもしれない。

 

2013年

12月

08日

2013.12.8.  矢野顕子@NHKホール

 年末恒例、と言いながらここのところは年ごとにユニークな企画やジョイントが用意され、矢野顕子音楽を多角的に楽しむ場となっている“さとがえるコンサート”。

今回は、ピアノ/キーボードと作/編曲を担当する松本淳一、テルミンを操るトリ音、そしてオンド・マルトノ奏者の久保智美から成るユニットMATOKKUとの共演で、1994年にリリースされた矢野のアルバム『ELEPHANT HOTEL』を全曲演奏する、というのがあらかじめ予告された“お題”だった。

 そこで当然、「なぜ20年前にリリースされたアルバムを今回取り上げることにしたのだろう?」という疑問が生じるわけだが、ステージを見て感じたのはやはりMATOKKUとの共演を前提に、というか、彼らとのアンサンブルの魅力を最も際立たせるであろう作品として、このアルバムがピックアップされたのだろう、ということだ。“象ホテル”というタイトルからしてなんともイマジナブルなこのアルバムに収められた楽曲たちは単にバラエティーに富んでいるというだけでなく、どこか“象ホテル”的な非現実感を内包している。そのなんとも説明のつかない感じを音楽的に局部肥大させるにはMATOKKUのサウンドは最適だ。しかも、それは例えばボカロ音楽の生身では有り得ない感じというのとは違って、テルミンにしてもオンド・マルトノにしても、じつにアナログな質感を醸し出しながら、しかし宇宙的に摩訶不思議な音世界を作り出してみせた。

 その宇宙感をいっそう際出せたのが、スペシャル・ゲストの奥田民生だ。矢野のたってのリクエストに応えて歌った「スタウダマイヤー」の、身辺雑記の向こうに内省を含んだ詞世界と彼の生身な存在感を強く感じさせる歌声はMATOKKUの音世界とは好対照で、2曲目の「ラーメン食べたい」ではさらに、奥田ならではの無頼感みたいなものも漂ったから、その両者が矢野とともに共演した「すばらしい日々」は、地球から宇宙を見上げる視線と宇宙から地球を見下ろす視線が交差する点をつなぎ合わせて曲線を描くような音楽になった。

 多くの曲でピアノを演奏せず、マイクの前で立って歌う矢野のボーカルは、敢えて言えばYANOKAMIのそれに近く、ということはいつにも増して器楽的で、だからこそ意味に縛られないMATOKKU流の自由な音の広がりがいっそう伸びやかに感じられたステージだった。

2013年

12月

08日

2013.12.7. ゴスペラーズ@東京国際フォーラム

アルバム『ハモ騒動』を携えてのツアー。

『ハモ騒動』は、彼らにとって初めてのカバー・アルバムであるわけだが、「Gentle music magazine」vol.15で紹介したロング・インタビューでも語られている通り、その試みは彼ら自身の音楽的な氏素性を自ら確認する作業でもあったようだ。で、そのアルバムをフィーチャーしたこのツアーのステージはヒストリカルな内容で、それに沿って彼ら自身のキャリアも振り返る場面が折り込まれている。最後のMCで村上てつやが、今回は自分たちがどれくらい音楽が好きかということを問われるツアーでもあると思うという主旨のことを話していたけれども、そういう意識を自らに差し向ける冷静さこそが彼らをここまでの人気グループにしたとも言えるだろう。そして、このあらためての自分たちに差し向ける視線は、デビュー20周年を迎える来年の活動をより肉厚なものにするはず、と思わせた。この日のステージ自体は、彼らにとっておそらく100点万点というわけではなかったと思うが、しかしエンターテイメント・ショーとしての濃度は十分過ぎるほどで、満員のオーディエンスが堪能したことは間違いない。

2013年

11月

16日

2013.11.15. 浜崎貴司vsハナレグミ@DUO

浜崎貴司の弾き語り対決シリーズGACHIのシーズン3最終回。

タカシ同士の対決となったこの日は、「タカシの唄」という抱腹絶倒ソングが披露されたうえに、共演パートの選曲も“タカシ縛り”ということで、どんとの本名が“タカシ”だとは知らなかったが、ボ・ガンボスの「誰もいない」にやなせたかしの「アンパンマンのマーチ」がピックアップされた。このシリーズではほぼ恒例になっている清志郎楽曲のカバーは「帰れない二人」。さらには、ハナレグミのカバー・アルバムでも取り上げていたオリジナルラブ「接吻」といったラインナップ。ただ、共演パートのクライマックスは、やはりアンコールで、永積はドラムを叩き、しかも飛び入りでおおはた雄一がギターで加わり、「幸せであるように」を演奏。間奏部分では永積が「今夜ブギーバック」をフィーチャーし、1990年前後のグルーヴが甦るステージになった。もちろん、二人のボーカルのコントラストはとても印象的で、聴き手の心にすっと入り込む永積の囁きとゆったりとした間にもグルーヴが渦巻いているボーカルに対して、浜崎の静かな揺るぎなさは彼が着実に実のある時間を積み重ねていることを感じさせた。

2013年

9月

22日

2013.9.22. 藤井フミヤ@パシフィコ横浜

デビュー30周年ツアー、その2日目のステージである。

デビュー記念日である昨日・9月21日に同じパシフィコ横浜から始まったこのツアーは、30周年ツアーのvol.1ということで、“青春”というタイトルが付けられている。なぜそういうタイトルが付けられたのかはセット・リストを見れば一目瞭然で、彼のキャリアの最初の10年、つまりチェッカーズ時代の曲を中心に据えたラインナップになっている。それは、この日会場を埋めたファンの青春を彩った曲たちでもあるだろう。となれば、ライブは自然とノスタルジックな空気に包まれるものだし、実際オーディエンスの多くはノスタルジックな思いに耽る場面も多かっただろう。が、フミヤ自身のパフォーマンスは、懐かしさを連れてくるだけのものではなく、むしろここのところの彼のツアーが常にテーマにしている「シンガーとして魅力を押し出した大人のエンターテイメント・ショー」の藤井フミヤVERSION確立への重要なヒントをはらんでいるように思われた。すなわち、リズム&ブルースやロカビリーをベースにしながら当時の歌謡曲的味付けで聴かせた初期のチェッカーズ音楽からピックップされた曲たちをオンなアレンジと腕利きミュージシャンによる演奏で聴かせると、それはずいぶんとAORな味わいを持っているからだ。言い換えれば、大人のシンガーとして彼のレパートリーをより豊かにするのは、メロディックなバラードやフォーキーな味わいのナンバーではなく、ミディアム・テンポのロッカバラードやR&Bフレイバーの強いグルーヴィー・チューンだろうということをあらためて感じたのだった。

ところで、アンコールのMCで明らかになった武道館での解散公演から紅白歌合戦までの流れについての記憶違いは、当時の彼らがどれだけ混乱の中にあったかを思わせて印象的だった。フミヤの言葉を借りれば「勝手に解散した」ということになるわけだが、ある意味では潔いその解散の顛末が「TRUE LOVE」を生み出したとも言えるし、藤井フミヤという人の男気のようなものも感じさせる。来年行われるvol.2はソロになってからの20年をたどる内容になるようだ。ここでも、ノスタルジックに泣かせて、同時に未来を感じさせてくれるステージをきっと披露してくれるはずだ。

 

2013年

7月

17日

2013.7.17. 黒沢健一@赤坂BLITZ

 アルバム『BANDING TOGETHER in Dreams』をフィーチャーした全国ツアー、その最終日のステージである。

 黒沢にとってはバンドでのツアーは4年ぶりということもあってか、このツアーでは録音フリー、撮影フリーがあらかじめアナウンスされていたわけだが、当然のようにオーディエンスのほとんどはそれぞれにカメラやレコーダーを掲げてステージに向き合うことになった。冒頭のMCで黒沢が「自由に録ったり撮ったりしてくれればいいんだけど、でもずっとそうしてないでたまには体を揺らしてたりもしてね」と話していたけれど、実際のところ、2階から客席を見ていると、録ったり撮ったりに一生懸命でライブを十分に楽しめているのかな?という感じの人もいて、他人事ながらちょっと心配になった。おそらくは録音フリー、撮影フリーというライブも今後は増えていくと思うけれど、そういうステージに臨むオーディエンスのリテラシーはまだその状況に追いついていないのかもしれない。

 それはともかく、この日のステージはもちろんアルバム『BANDING TOGETHER in Dreams』からの曲を中心に構成されていたわけだが、加えて事前にwebで募ったリクエストに応える形で黒沢のレパートリーのなかからかなりマニアックな選曲のナンバーもピックアップされ、彼の音楽の最新版とコアな部分が並列に演奏されることであらためて彼の音楽の個性を確認できるステージになった。その個性とは、ひと言で言えば、やはりポップということになるのだろうが、しかしそのベースにはつねに過剰なほどのパッッションが溢れていて、だからこそ時にそのポップの形はかなり入り組んだものになったりもしたわけだ。1回目のアンコールで「Rock’n Roll Band」を演奏し、その最後に「Keep On Rock’n Roll!」と彼が叫んだのは、音楽の形としてのロックンロールをこれからも作り、また演奏していくよという表明に止まらず、その熱いパッションを決して失わないよという宣言であったように思う。

 その一方で、彼自身も大いに楽しみにしていたバンド編成のツアーのファイナルなだけに、アレンジや演奏はかなりやんちゃな感じになっているんだろうなと想像していたが、むしろ個々の楽曲の魅力をしっかりと押し出すような演奏になっていて、それが黒沢本人も含め、バンドがこのツアーを通してたどり着いた地点なのだろうから、それはそのまま彼の音楽の最も重要なポイントが楽曲自体の魅力であることをこれまたあらためて物語っていたように思う。

 

 

 

1. DAY BY DAY

2. Return To Love

3. A Summer Song

4. Many Things

5. Round Wound

6. Easy Romance

7. So What?

8. I’m In Love

9. Morning Sun

10. DREAMS

11. Lay Your Hands

12. スピードを上げていく

13. MAYBE BABY

14. Motion Picture

15. NICE TO MEET YOU

16. KNOCKIN’ ON YOUR DOOR

17. Rock’n Roll

18. ALL I WANT IS YOU

[ENCORE-1]

1. This Song

2. Rock’n Roll Band

[ENCORE-2]

1.Goodbye

2013年

7月

05日

2013.7.4. 浜崎貴司vsトータス松本@DUO

 浜崎貴司が続けている弾き語りライブ対決シリーズ”GACHI”シーズン3のステージ。今回は、バンドのフロントマンというイメージがひと際強いボーカリスト、トータスとの対決ということで、いよいよバーリ・トゥード的な展開になった。

 というのは、先にソロ演奏を披露したトータスが、オーディエンスのエンジンを十分に温めた後、最後の曲のリフを弾き始めると、それに応えて客席から手拍子が起こる。そこで、トータスはさらにそのリフのフレーズをみんなで歌うことを求めながら楽器を置き、マイクをスタンドから取り外してステージ前に出てきた。つまり、オーディエンスの歌声に乗ってハンドマイク片手にパフォーマンスを披露する、完全なバンド・スタイルとなったのだった。それは、言わば落語会でコントを始めたようなものだが、大きな笑いを取ったほうが価値という観点から見れば、これは全然アリだし、さらに言えば客席を思い切り鳴らして、それに乗ってシャウトするという弾き語りのスタイルなのだと言えば、これはもう完全にトータス流というか、彼ならではの弾き語りであると言えるだろう。

 おかげで、その後に登場した浜崎の弾き語りはいつにも増してシンガーソングライター然として感じられ、彼の内省感も際立つステージになった。印象的だったのは♪自分なんて見たくない♪と歌う新曲「ショーウィンドーの影」で、両者の個性の鮮やかなコントラストがそれぞれの自画像を浮き彫りにする結果にもなったと思う。

 その上で、そんなにも違って感じられる二人の歌が、二人ともに敬愛する忌野清志郎の曲が持つ愛に触発されるようにして歌の包容力という共通点が最後に押し出されて感じられたことが素晴らしく、またなんとも心地良いステージだった。

2013年

3月

29日

2013.3.29.  田島貴男@渋谷さくらホール

 オリジナル・ラブの田島貴男による弾き語りツアーのファイナルのステージである。オリジナル・ラブではなく田島貴男名義であることにどのような意味があるのかは定かではない。MCでは弾き語りのツアーは今回が初めてということだったが、ファンならば”ひとりソウルショー”と題した、彼流の弾き語りライブをオリジナル・ラブ名義でやっていることはご存知だろう。これもこの日のMCによると、”ひとりソウルショー”は「ひとりバカ騒ぎみたいにみんなを巻き込む感じ」ということで、しっとり聴かせるこの日のスタイルとは違う、ということらしい。実際、この日のステージは全編、椅子に腰掛けての演奏である。というわけで、敢えて田島貴男名義の理由を探せばしっとりとした弾き語りだから、ということなのかもしれない。

 もっとも、彼のライブが最後までしっとりとしているわけもなく、そもそも1曲目の歌い出しから、彼一流のねっとりとした歌声を響かせて、いわゆる弾き語りのイメージを完全にはみ出す脂っこさだった。

 この日の重要なお題のひとつは、6月末にリリースが決まったニュー・アルバムからの新曲をいち早く披露するというものだったが、このニュー・アルバムは本人の解説によると「斬新なアレンジで聴かせる異色作にして意欲作」なのだが、弾き語りではその斬新なアレンジが伝えられないというオチになっていた。だから、やっぱり新曲はリリースまでのお楽しみということになるわけだが、個人的にはリゾネーター・ギターやワイゼンボーン・ギターを駆使した演奏が、独特の郷愁を誘って印象的だった。この味わいがニュー・アルバムとどれくらいつながっているかはわかないけれど、いずれにしても田島自身の音楽的な興味がいよいよ大衆音楽の根っこに向かっていることをあらためて感じさせるライブだった。

 

 

2013年

2月

26日

2013.2.26.  スガシカオ@中野サンプラザ

 デビュー16周年を記念した、弾き語りスタイルを基調としたスペシャル・ライブ。その名も”Premium Adult Night”の東京2日目である。

 ファンの間ではすでにお馴染みだが、スガは通常のバンド編成によるライブとは別に”Hitori Sugar”と題した弾き語りライブ・ツアーを続けていて、この日のライブはその成果を披露するというものでもあったろうが、それがこの15年間の軌跡をまとめた2枚組ベストが2タイトル同時リリースされる直前というタイミングはなかなかに示唆的だ。というのも、ベスト盤とはそのアーティストの楽曲レパートリーの最良の部分をまとめて楽しむというものだが、一方弾き語りというスタイルが意匠を削いだ楽曲の骨格をあらわにする形であることは周知の通り。だから、このアニバーサリーのタイミングで、あらためてスガの楽曲力を実感してほしいというメッセージを感じたのは僕だけではないだろう。

 もっとも、そこで実感したのは、もちろんまずは楽曲の魅力だったけれど、同時にそれは彼のボーカルと分ち難く一体となったものであるように感じられたことが個人的な新鮮だった。その感覚は、ひらたく言えば、「スガの曲はスガが歌うからいいのだ」ということになるのだが、それをさらに考えていくと正確にはスガはスガにしか表現できない哀しみをその楽曲のなかに忍び込ませているということなのかもしれない。そして、その哀しみは、この日のような弾き語りスタイルで本人が歌うとつい姿を現してしまう。この日、MCで話していた「ステージの魔物」のように。でも、それは例えば砂浜にしみ込む春の雨のような哀しみだから、それを愛でるこおができるのはやはりPremiumなAdultだけなんだろうと思われたステージだった。

 

 

01.Re:you〜かわりになってよ

02.アシンメトリー

03.Party People

04.Festival

05.サヨナラホームラン

06.春夏秋冬

07.NOBODY KNOWS

08.ひとりぼっち〜SE〜アイタイ(w/Strings)

09.黄金の月(w/Strings)

10.夜空ノムコウ(w/Strings)

11.Progress(w/Strings)

12.夕立ち

13.Hop Step Dive

14.ヒットチャートをかけぬけろ

15.コノユビトマレ

16.午後のパレード(w/Strings)

[ENCORE]

01.バクダンジュース

02.傷口(w/Strings)

03.19才(w/Strings)

 

2013年

2月

26日

2013.2.6.  山崎まさよし@渋谷公会堂

 会場が暗転し、山崎まさよしが登場して、おもむろにギターを弾き始める。いきなり全開だ。山崎まさよし的ロマンティシズムが会場を覆い、その磁力に会場全体が引っぱり込まれてしまう。もっとも、その発信源は男一人と彼が奏でるギター、物量的にはそこに最大でベーシストとドラマーが加わるだけの、極めてこじんまりとしたものでしかないのだけれど、そのこじんまりとした親密さが濃密さに昇華し、その濃密さが山崎ロマンに確かな質感を与え、その持ち重りのするロマンティシズムがオーディエンス一人ひとりの心のいちばん繊細な部分に確かな居場所を確保することになる。

“SEED FOLKS”と題したこのツアーは、昨年12月にスタートし、この日が14本目。4月末まで続く行程の、その半ば手前といったところだ。山崎の昨年のリリースは「太陽の約束」「アフロディーテ」「星空ギター」という3枚のシングルのみで、つまりこのツアーはニュー・アルバムをリリースして、その楽曲を聴かせてまわるという、一般的なパターンのツアーではない。だからこそ“おいしい!”と思えるのは、その最近作3曲はもちろんだが、「One more time,One more chance」をはじめとするヒット曲、人気曲を、今年デビューから18年目を迎えた彼のキャリアすべてを見渡したなかからバランス良くピックアップしていて、山崎音楽濃縮版を堪能できる内容になっているからだ。

♪これ以上何を失えば♪と歌い始める「One more time,One more chance」を例にあげるまでもなく、山崎の楽曲の主人公の多くは“LOST FOLKS=失った人々”だ。しかも、その失われたものはその主人公にとってかけがえの無いものなのだが、そのかけがえの無さに気づくのはすでに失われてしまってからである。その失われたものへの哀惜の情を、山崎自身は例えば「女々しいこと」と言ったりするわけだけれど、しかし実際のところ人は常に何かを失い続けているし、それにもかかわらず失うことに慣れ親しむということがないのは周知の通り。だから、山崎が描く“LOST FOLKS”はやはり彼自身でもあり、そして我々自身でもある。

 その上で、彼の音楽を印象的に響かせるのは、彼の音楽のなかに通奏低音のように流れている“じつに時は流れていってしまう”という感覚だろう。かけがえの無いものを失ってしまったという特別な哀しみでさえも、時の流れはそれを過去に追いやって記憶のひとつにしてしまう。彼の音楽のいくつかの曲がひときわせつなく響くのは時の流れのその無情までも含み込んでいるからだし、いくつかの曲がなんとも爽やかに感じられるのはじつに流れていってしまうからこそ新しいときめきを見出す楽天性を持ち合わせているからだ。持ち重りがする山崎ロマンとは、つまりそんなふうに幾重にも様々な感情が折り重なっているということである。

 この日のライブは、絶妙なセット・リストが山崎の楽曲のそうした奥行きや広がりをあらためて感じさせてくれるということに加えて、山崎音楽のもうひとつの重要な魅力であるライブ・パフォーマンスの高効率なエネルギーの高さも堪能させてくれるという意味でも“山崎音楽濃縮版”と呼ぶに相応しい。中村キタロー(b)や江川ゲンタ(ds)との会話がとりわけ緩いから余計、演奏が始まると一瞬にしてギュッと締まる、そのギアチェンジのキレの良さがなんとも印象的だ。そして、いったん高まったその演奏の集中力が下がることは一切ない。熟した実が新しい種を生み出すように、その成熟したバンド・アンサンブルは山崎音楽の次なる展開の予感もはらんでいるように思える。これまで積み重ねてきたキャリアの成果を伝えながら、その向こうにあるものを予感させるこのツアーは、山崎音楽の種を蒔く人たち=SEED FOLKSの新しい収穫に向けた第一歩でもあるのかもしれない。

 

2013年

1月

12日

2013.1.12.  甲斐バンド@戸田市文化会館

 全曲ニュー・レコーディングによるセルフカバー・ベスト『ROCKS」を1月9日にリリースしたのを受けての全国ツアー、その初日のステージである。ベスト・アルバムをフィーチャーしたツアーだから、当然と言えば当然なのだが、まさにベスト選曲と言うべきセット・リストで、ファンとしてはお腹いっぱいになること間違い無しといった感じである。しかも、中盤にはアコースティック・セットでずいぶんと懐かしい曲も披露したりする。

 ただし、このツアーの見どころ/聴きどころは「何を演奏するか?」ではなく「いかに演奏するか?」であって、そうした甲斐バンド・クラシックスを、終演後の松藤の言葉を借りれば「レコーディングやったからすごく整理された」演奏でなんともグルーヴィーに、そしてじつにドラマティックに聴かせてみせる。甲斐が冒頭のMCで語った通り、「甲斐バンドは元気です」ということを実感するステージだ。

 そして、ずらりと並ぶ甲斐バンド・クラシックスをその見事な演奏で聴いていくと、あらためて甲斐バンド音楽の本質のようなものを再確認することにもなった。それは、時は過ぎ行き、人の心はじつに移ろっていくものだからこそ、身のうちの血をたぎらせるようにしてかき立てた情熱を真っすぐに差し向けることが誠実さなんだというメッセージであり、アルバムではジャケットの真っ赤なタイトル・ロゴがそれを象徴しているが、この日のステージではやはり一つ一つの色がきっぱりとして鮮やかな照明がその心情をビビッドにビジュアル化して見せていた。

 

 

 

01.破れたハートを売り物に

02.翼あるもの

03.感触(タッチ)

04.きんぽうげ

05.ビューティフルエネルギー

06.テレフォン・ノイローゼ

07.カーテン

08.東京の一夜

09.裏切りの街角

10.ナイト・ウェイブ

11.BLUE LETTER

12.男と女のいる舗道

13.安奈

14.ボーイッシュ・ガール

15.氷のくちびる

16.ポップコーンをほおばって

17.漂泊者(アウトロー)

18.HERO

[ENCORE-1]

01.港からやってきた女

02.ダイナマイトが150屯

03.嵐の季節

[ENCORE-2]

01.冷血(コールド・ブラッド)

02.ダニーボーイに耳をふさいで

 

 

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 『ROCKS』

 

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通常盤[CD]:XQKZ-1005

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アイビーレコード

2012年

12月

31日

2012.12.30.  藤井フミヤ@東京国際フォーラム

 ”Winter String"と題したスペシャル・ツアーのファイナルであると同時に、今年の活動を締めくくるステージでもある。"Winter String"ツアーは、10月の企画アルバム『Winter String』リリースを受けてのものだが、その内容から見れば7月にリリースされたアルバム『Life Is Beautiful』とそのツアーの発展型と言えるもので、演奏は有賀啓雄をバンマスとするいつものバンドに4人編成のストリングとサックスを加えた「ゴージャスな音のディナーを届ける」(Byフミヤ)というコンセプトのステージだ。

 フミヤ・ファンにしてみれば、「True Love」や「Another Orion」のような名バラードはもちろん聴きたいが、同時にアッパーなダンス・チューンで思い切り弾けたいというのが正直な思いだろうが、フミヤ自身は近年、歌ものを前面に押し出す傾向をどんどん強めているし、インタビューでもその指向をはっきりと表明している。ただし、ファンの思いを決してないがしろにしない彼のことだから、弾けたいファンの気持ちをどうやってボーカル・オリエンティッドなステージ構成のなかに着地させるかという試行錯誤がずっと続いてると言っていいだろう。

 その観点から見れば、この"Winter String"ツアーはかなり上手くいったステージなのではないか。ストリングスが入ることで、ダンス・ナンバーはフィリーソウルのようなメロウネスを加え、熱いロッカバラードにはいっそうの切なさが感じられた。つまり、弾けたい熱量をグルーヴィーに吸収しながら、その高揚を大人な味わい深さへと導いていったわけだ。

 もっとも、今回のステージの最大の見どころは彼が赤鼻のピエロに扮して見せるパントマイムのコーナーで、その短いパフォーマンスが続く楽曲のイメージをふくらませる役割も果たしながら、ステージ全体の展開にさらなる奥行きを加えていた。さらには、ピエロとしてのフミヤというキャラクターが加わることで、歌うフミヤとMCで笑わせるフミヤとのコントラストもいっそう際立つことになった。また、その演劇的な演出は、時に語るように歌うボーカル・スタイルにシャンソン的な味わいも感じさせた。

 来年はいよいよデビュー30周年ということになるわけだが、ステージ・パフォーマーとしての彼はまだまだ進化を遂げていきそうだ。

2012年

12月

29日

2012.12.29. 黒沢健一@東京グローブ座

 すっかり恒例となった年末のグローブ座公演。4回目の今年は、「ひとりアカペラ」というお題でのステージだ。つまり、多重録音した自身の声をバックに歌を聴かせるというスタイルだが、そこでアカペラのための新曲を書き下ろしてしまうところがいかにも彼らしいが、毎年その公演でしか体験できない編成とアイデアのライブを披露してきたグローブ座公演の究極の形とも言えるだろう。

 もっとも、あらかじめ録音したオケをバックに黒沢が一人で歌うともなると、実際のステージ上はやはりちょっと寂しくなることを配慮して、盟友のピアニスト遠山裕がシンプルなサポートを聴かせたのに加えて、コーラス・パートを歌う黒沢の映像を映し出す5台のモニター、その名も「ALONE TOGETHERS」が彩りを添えた。

 さらには、そのアカペラのオケ・トラックの制作と並行して続けられたというニュー・アルバムに収められる予定の新曲も数曲披露。遠山と二人だけでの演奏なのでアレンジと呼べるような味付けはほとんどなかったが、だからこそ黒沢が書くメロディーラインの魅力をあらためて実感できたと同時にニュー・アルバムのリリースが待ち遠しく感じられた。

 アンコールでは、そのアルバムのリリースとそれに伴うツアー開催が力強く発表され、今年の成果をしっかり伝えるとともに来年への期待も大いに高まるステージだった。

2012年

12月

09日

2012.12.9. 矢野顕子@NHKホール

 矢野顕子を相対化するのは難しい。言い換えれば、受け入れるか拒否するか、二つに一つということになるだろうか。ところが、この日のライブではその相対化の方法がコロンブスの卵的に示された。つまり、矢野顕子を相対化するには「矢野顕子」を差し向ければいいのである。

 恒例のさとがえるコンサート。今回のゲストは、自他ともに認める矢野大ファンであると同時に、彼女の物マネの名人でもある清水ミチコだ。この日のMCでも、清水が面白おかしく話していたけれど、大方の予想としては”お笑いと芸術の顔合わせ”的なものになるのだろうと思われていたはずだし、実際のところ、例年以上に楽しい笑いが客席に溢れていたのは事実だ。が、清水のパフォーマンスは、じつに達者なピアノ演奏も含め、完全にものマネの閾を超えていて、彼女いわく「40年以上も」かけて練り上げられた「矢野顕子」によって、実際の矢野顕子は批評的に相対化され、だからこそその音楽の魅力がいっそう際立つことになった。そして、それは奇しくも、忌野清志郎とその楽曲について語ったことがそのまま矢野と彼女の音楽にも当てはまることも確認された。さらに言えば、そういうメインディッシュが用意されていたからこそ、冷徹な抽象画のような「ばらの花」の演奏も生まれたのだろうと思われた。

 

 

1.クリームシチュー

2.こんなところにいてはいけない

3.電話線

4.ばらの花

5.誇り高く生きよう

6.ごはんができたよ

7.丘を越えてw/清水ミチコ

8.変わるしw/清水ミチコ

9.風のブランコw/清水ミチコ

10.卒業写真w/清水ミチコ

11.嵐が丘〜きみの友だちw/清水ミチコ

12.恋のフーガ&老人と子供のポルカw/清水ミチコ

13.相合い傘〜いもむしごろごろw/清水ミチコ

[ENCORE]

14.ラーメン食べたい

15.ひとつだけw/清水ミチコ

 

2012年

12月

08日

2012.12.7. 浜崎貴司vs奥田民生@渋谷AX

 浜崎貴司が続けている弾き語りによる対決シリーズ”GACHI”のシーズン3その3。この日は同い年対決だ。

 このシリーズの恒例に従って、最初は二人で出てきてテーマと数曲演奏するわけだが、そこでまず民生がマッチ風のボーカルを披露して、最初のウケをとる。その後も玉置浩二風を聴かせるなど達者なところを見せた奥田は、以前ARBのカバー・アルバムでも見事な石橋凌風を聴かせていた。思うに、人の歌を音として解析する能力が彼はおそらく高いんだろうし、その解析した結果を音化するために発声をコントロールする精度が高いんだと思われるが、それはつまり音に対して敏感ということである。

 それにしても、ふたりのボーカルのスタイルはずいぶん違う。そんなことは誰でも承知していることだろうが、あらためて思うのは言葉の慈しみ方みたいなことだ。奥田は、ある種薄情に、ある種無責任に、少なくともそういうふうに受け取られかねない感じで、言葉を吐き出す。対して、浜崎の言葉の送り出し方は受け取り手に手渡すような具合だ。もちろん、どちらがいい/悪いという話ではなくて、完全に好みの問題だとは思うけれど、ただこの日ポロリと奥田が「バンドぉやりたいな」とこぼしたときに思ったのは、音楽家としてのアイデンティティをバンドに求めるのか、それよりももっと個人的なところに求めるのかの違いであるようにも思われた。

 そんなことを思っていたら、最後にYO-KINGが出てきて「ドカーン」を歌ったから、いよいよ言葉の送り出し方ということに気持ちが向いた。というのも、最近のYO-KINGの歌には個人的に少し変化を感じていたのだけれど、この日の「ドカーン」を聴くと、昔の彼はもっと無邪気に放り出すように言葉を発していたんじゃないかなあと思った。それも、いい/悪いの話ではないのだけれど。

 それにしても、奥田、YO-KINGと並ぶと、浜崎の朴訥とした生真面目さがついつい際立ってしまうのが、少しおかしかった。

 

 

 

1.GACHIのテーマ(奥田&浜崎)

2.すにーかーぶるーす(奥田&浜崎)

………以下、奥田ソロ……

3.さすらい

4.野ばら

5.ひとりカンタビレのテーマ

6.The STANDARD

7.Girl

8.SUNのSON

9.CUSTOM

10.マシマロ

11.すばらしい日々

………以下、浜崎ソロ……

12.JOY!

13.MUSASINO

14.光

15.くちづけ

16.風の吹き抜ける場所へ

17.ドマナツ

18.友情のエール

19.幸せであるように

……………………………………

20.I WANNA BE YOUR MAN(奥田&浜崎)

21.歌うたいのバラッド(奥田&浜崎)

22.イージュー☆ライダー(奥田&浜崎)

23.ありがとう(奥田&浜崎)

24.夢の中へ(奥田&YO-KING&浜崎)

25.ドカ〜ン(奥田&YO-KING&浜崎)

26.GACHIのテーマ(奥田&YO-KING&浜崎)

………ENCORE……

27.君と僕(奥田&浜崎)

28.ソウルシンガー(浜崎ソロ)

 

 

 

 

2012年

11月

30日

2012.11.29. 吉井和哉@日本武道館

TOUR 2012".HEARTS"ファイナル公演である。

ツアー・タイトルは、吉井のMCによれば、「吉井とオーディエンスがハートを見せっこするツアー」という意味だそうである。昔の総理大臣が「総理とはドス黒いほどの孤独に苛まれるもの」と語ったことがあったけれど、吉井のライブを見ていると、その「ドス黒いほどの孤独」というフレーズをよく思い出す。で、彼はいつでも、おそらくは今でもそれと格闘しているはずで、すぉの格闘の記録は来年10周年となるソロ・キャリアの軌跡とも重なるものだと思う。この日も示した”闇”の深さと、それをロック的な表現に昇華せずにはいられない業のようなもの、そしてその表現の揺るぎなさは、やはり圧倒的だと感じさせるステージだった。まあ、ひと言で言えば、かっこいいということなんだけど。かっこいいと言えば、相変わらず照明とステージ後方の映像もかっこよかった。

 

 

M-1.20 GO

M-2.煩悩コントロール

M-3.欲望

M-4.SPARK

M-5.ロンサムジョージ

M-6.SIDE BY SIDE

M-7.母いすゞ

M-8.CALL ME

M-9.ノーパン

M-10.BLACK COCK'S HORSE

M-11.太陽が燃えている

M-12.ONE DAY

M-13.VS

M-14.点描のしくみ

M-15.ビルマニア

M-16.TALI

[ENCORE]

E-1.ロックンロールのメソッド

E-2.PHOENIX

E-3.WEEKENDER

E-4.HEARTS

 

 

2012年

11月

29日

2012.11.28.  石井竜也@中野サンプラザ

ソロ活動15周年記念ツアー“MOONLIGHT DANCE PARTY”のファイナル公演。

4曲歌った後の最初のMCで客席に「イエーッ!」と煽って、その「イエーッ!」の歓声のようすだけで、ひとしきり場を保たせてしまう話芸は相変わらず。そのMCの調子とボーカルの表情とのコントラストがこの人のコンサートの楽しみのひとつであることは間違いないが、その両方に共通する基本的なトーンとしてのそこはかとない優しさが印象的だった。

セット・リストは、9月にリリースした最新アルバム『LOVE』からの曲はもちろん、15年のソロ・キャリアを見渡した曲たち、さらには米米CLUBの大ヒット曲「浪漫飛行」まで含めたラインナップで、その多彩なサウンドに対応する石井のボーカル・ワークのしなやかさと揺るぎなさをあらためて印象づけることになったが、中盤には例によって寓話的な芝居が折り込まれ、人間の未来についてのシニカルな問いかけを含んだその内容がコンサートにさらなる奥行きを与えていた。そして、本編最後の「LIFE IS WONDERFUL」に代表されるポジティブな意志の力が、あるいは全ての演奏が終わった後で石井が叫んだ「みんな、一生懸命生きていこう!」という言葉が、この日のコンサートの唯一にして最大のメッセージだろう。

 

 

M-0.ART VANDALIZE

M-1.Where is Heaven

M-2.VOICE

M-3.TRAUMA

M-4.On my road

M-5.lovin' you

M-6.この手は君に

M-7.愛してるから

M-8.Please Please Please

M-9.浪漫飛行

M-10.ヒハマタノボル

M-11.Friend

M-12.ガラスの月 by 清水美恵

 

<芝居「SUPER ZERO」>

 

M-13.魔法の鍵〜The Dream Goes On〜

M-14.この世のHEAVEN

M-15.GENTLE KISS

M-16.熱愛

M-17.LIFE IS WONDERFUL

[ENCORE]

E-1.WHITE MOON IN THE BLUE SKY

E-2.プラネタリウム

E-3.風の唄

2012年

7月

23日

2012.7.22.   オリジナルラブ@SHIBUYA-AX

久しぶりのバンド編成によるツアー"OVERBLOW"のファイナル公演。20周年の昨年は弾き語りツアーだったから、このツアーが20周年のアニバーサリー・ツアーとも言えるだろう。

バンドは20年前と同じ編成だし、黒人音楽をベースにした熱くて濃いステージングは相変わらずと言ってもいいかもしれないが、音楽自体が伝える肌触りのようなものはかなり違っている。スーツ姿が基本だった昔はやはり音楽もソフィスティケイトを旨とし、熱さと洗練の拮抗が大きな魅力だったが、最近は熱さや濃厚さ、そしてそういう特質をむせかえるほどに発散する田島貴男自身の存在感がどんどん前に出てきて、その存在感の包容力でオーディエンスを説得してしまうという感じである。言い換えれば、黒人音楽ベースとは言っても、かつてのそれはアメリカ北部、もっと言えば英国経由の黒人音楽という印象だったのが、今はイリノイ鉄道でアメリカ南部に下ってきてもっと土臭さがもろに出ている。「ツアー中に買ってしまった」と言ってうれしそうに披露したシルバーのドブロギターをフィーチャーした演奏は、そうした変化を象徴的に伝えるものだろう。あるいは、この日も聴かせた「夜をぶっとばせ」に代表されるような、理由なき苛立ちやニヒリスティックな世界観に突き動かされていた印象のデビュー当時は意味としてはやはりロックだったが、例えばこの日の田島の歌がにじませた静かな哀しみやおおらかな歓びの感覚はゴスペルに通じるものであるように思われた。

田島貴男という音楽家が、自身の音楽性にしっかりと年輪を刻みながら展開してきたこと、そして現在も確実に深化の過程にあることをあらためて実感させるライブだった。

2012年

6月

16日

2012.6.16.   the pillows@Zepp TOKYO

 3月にスタートした”TRIAL TOUR”、そのファイナル(振り替え公演が1本残っているが)である。4月に渋谷クアトロで見たときとはだいぶ印象が違っていて、それは2ヶ月かけて全国をまわってきたんだから違うのは当たり前といえば当たり前なのだけれど、でもその違いはそういう本数を重ねたからこその違いという感じではないような気がしたから、なんだかこの日のステージは印象的だった。

 この日のステージには、”20年選手”ならではと思わせるバンドの一体感や演奏の”ため”みたいなものを随所に感じさせながら、しかし”20年選手”らしい落ち着きとか堂に入った感じを漂わせることがなかった。と言って、もちろん若手バンドのように初々しい感じでもない。すごく充実しているのだけれど、でもその充実はすごく繊細なバランスの上に成り立っているような感じで、それはまさに山中さわおという人の人柄を連想させて、ということはやはりバンドの有り様がいつも以上にリアルに演奏化されていたと考えるべきなのかもしれない。

 ひいきのバンドが年季を重ねて滋味を増していくのをリアルタイムで体験していくのはバンドを追いかける醍醐味のひとつだが、一方でどれだけ年季を重ねてもなんだか前のめりで一触即発な感じというか、次の瞬間には全然変わっているかもしれないと思わせる何かはらんでいて、だからこちらもずっと安心できない、というタイプのバンドがいる。僕にとってのthe pillowsはそういうバンドで、だからこそまたライブに出かけていくんだよな、ということをあらためて実感したライブだった。

 

2012年

4月

25日

2012.4.24. TM NETWORK@日本武道館

「潜伏期」という意味のタイトルが付けられた武道館2デイズ公演、その1日目。それは、彼らにとってデビューから28年目、ワンマン・ライブとしては2007年の全国ツアー以来、5年ぶりのステージである。

 2日間のステージがそれぞれ前編と後編という位置づけになっていたようだが、かと言って前編にあたるこの日のステージが何かの半分だけというもの足りなさを感じたかと言えば、まったくそんなことはない。色鮮やかな照明と隙のない演奏、それとは好対照を成す無邪気とも思える一面、例えば機材トラブルを思わせる演出でオーディエンスをドキドキさせたり演奏を終えた3人が思わせぶりな行動を見せてステージを去っていったりといったことも含め、スタイリッッシュとも言える、彼らならではのドラマ性が見事に表現されたステージだった。

 とりわけ印象的だったのは、会場を包んでいた特別な時制だ。そもそも今回の公演は2014年からタイムマシンで3人がやって来たという設定になっていたようだが、演奏が始まると、そうした擬制を超えて、5年のインターバルはおろか、この28年間の時の流れさえも無化され、オーディエンスはTM NETWORKという時間を生きることになった。考えてみれば、彼らの音楽はつねに未来から現在を照らしていたのだし、あるいは宇宙の中の地球という惑星に自分たちが立っている場所を見出していたのだから、5年あるいは28年などという時間の流れも彼らの世界に少しばかり近づいたという程度のことなのだ。TM NETWORKという時間を生きるとは、そういう時間感覚を共有するということだし、実際のところ、この日の3人の姿は5年前はおろか28年前と比べてもほとんど変わっていない。そして、過去は現在と直結し、そのまま未来へと開かれる。

 鮮烈な赤の照明と特効を駆使して戦争を連想させるような長いイントロに続いて演奏された「Get Wild」の、♪誰かのために生きられるなら何もこわくない/誰かのために愛せるのならきっと強くなれる♪というメッセージは、この曲が発表されたバブル真っ只中の1987年よりも、東日本大震災を経験した後の2012年のほうがいっそうリアルに響いたはずだし、だからこそイントロで示されたカタストロフの暗示を真剣に憂うべきなんだろうと思わせられる。それでも、すべての演奏が終わった後に温かな思いが身体を包むのは、単にデジタル・ビートに煽られて上気したからではなく、最新曲「I am」で繰り返し歌われる♪I’m human♪というフレーズが象徴する、喜怒哀楽を持った生身であることに対する強い共感がこの日のステージを貫いていたからだろう。そして、それはもちろんこの時代を生きる彼らの実感であるはずだ。「潜伏期」という意味のタイトルが付けられたこの日のステージは、彼らが“潜伏”はしていても、ちゃんとこの時代を呼吸していることを告げるライブだった。

 ちなみに、主人公3人は♪I Am 22 nd Century Boy♪と歌う曲を最後に、ステージを後にした。TM NETWORKという時間とは、22世紀的時間であるのかもしれない。そして、この日のステージは、2014年という年からやって来た3人からのメッセージを受け取るという設定だったわけで、それは他でもない「30周年」への印象的な“招待状”であった。

 

 

 

1.OPENING

2.Fool On The Planet

3.ACTION

4.永遠のパスポート

5.Come on Let's Everybody

6.Love Train

7.Kiss You

8.GIRL

9.Nervous

10.I am

11.Just One Victory

12.BEYOND THE TIME

13.Get Wild

14.Wild Heaven

15.Be Together

16.Self Control

17.Electric Prophet

 

 

2012年

3月

21日

2012.3.20  All That LOVE@幕張メッセ

 スポーツ新聞の見出しなら「80年代の興奮、再び!!」みたいなことになるのかもしれないけれど、実のところ、80年代、90年代にはこの組み合わせは実現していない。それぞれに若い自意識と強い自負を抱えて独自に道を突き進むのに忙しかったせいもあるだろう。しかし、時の流れが気負う気持ちをずいぶんとフラットにしたはずだし、それにこの日は震災復興チャリティーという”大義”があった。だから、それぞれがそれぞれの”芸風”を持ち寄って、それぞれに往時の興奮を再びよみがえらせる、印象的なイベントになった。

 そもそも、この日の3バンドがデビューした80年代はまだJ-POPなんて言葉はなかったし、ということはその言葉が意味する、良くも悪くも洗練されたポップ・ミュージックのフォーマットがまだ成立していなかったわけで、じつに多彩なサウンドがメジャーのフィールドでも試みられていた。この日の3バンドの競演が当時は実現しなかった理由のひとつは、単純に音楽性がずいぶん違っていたから、ということもあるだろう。

 こうしたイベントでは、最初に出てきていきなり派手にやって驚かせ、さっさと帰ってしまう、というのが強い印象を残すパターンのひとつであるわけだが、でもこの日は2万人という数のオーディエンスがいて、しかも彼らがどういうノリ、どういうテンションなのか、読めないところもあったから、逆にこの日のトップバッターというのはある意味ではかなりリスキーだったと思う。が、米米CLUBは、ご存知の通り、筋金入りのエンターテイメント・バンドだ。客が最初どこを向いていようが、必ず自分のほうを向かせてしまう。この日は、フタを空けてみれば、真っすぐに前のめりだったオーディエンスの気持ちをまず焦らすようにいなし、お馴染みのヒット曲を続けて披露して寛がせ、そして最後は得意のファンキー&クレイジーな力技で会場をひとつにしてしまった。終盤の盛り上がったところで、プリプリとTMのヒット曲のフレーズを演奏に挟み込む遊び心も交えながら、熱くシニカルに、自らの個性をアピールしてみせた。

 続くプリンセス・プリンセスは16年ぶりのステージ。「一生懸命練習してきたの。ホントよ。だって、がっかりさせちゃいけないでしょ」と、最初のMCで岸谷香は話したが、その前に1曲披露された演奏を聴いてオーディエンスはもうすっかり興奮していたはずだ。その16年というインターバルを無化するような確かな存在感、もっと言えば16年前よりもさらに地に足の着いた印象を与える揺るぎなさに溢れていたから。そして、「こんばんは、プリンセス・プリンセスです」とまた挨拶できることが本当にうれしいと感じている、その高揚が客席に伝わって増幅し、大きな幸福感を作り出していく。そうしたステージと客席とのコラボレーションはやはり彼女たちならではのもの。プリ・プリ、健在である。

 TM NETWORKのステージは、古典の重厚さと前衛の先鋭性を兼ね備えた彼らの個性が凝縮された形で表現された濃密なものになった。サポートは、北島健二(g)、西村麻聡(b)、山田わたるのフェンス・オブ・ディフェンス。高い技術に裏打ちされた隙のない演奏が、TMの音楽世界のスケール感をより強く印象づけてみせる。そして、中盤に挟み込まれた小室哲哉のキーボード・ソロが、その世界の中心にある衝動を提示する。高まるロマンを不条理な破調が鋭角的に切り裂く刹那のきらめきがなんとも美しい。そこから生まれた、デジタル・サウンドで肉体的な衝動を表現するという80年代の夢は、メンバーの成熟を得ていよいよロマンティックに進化したと実感することになった。

 

 

米米CLUB

1.愛 know マジック

2.嗚呼! 浪漫飛行

3.気味がいるだけで

4.WE ARE MUSIC!

5.ジェームス小野田登場テーマ〜Live in PARIS〜Tomorrow is another day 〜Oh米GOD

6.狂わせたいの〜どうにも止まらない

7.SHAKE HIP

 

プリンセス・プリンセス

1.世界でいちばん熱い夏

2.Diamonds

3.GET CRAZY!

4.M

5.SEVEN YEARS AFTER

6.OH YEAH!

7.ROCK ME

 

TM NETWORK

1.BEYOND THE TIME

2.KISS YOU

3.We Love The Earth

4.Love Train~Keyboard SOLO

5.Be Together

6.Get Wild

7.SEVEN DAYS WAR

[ENCORE]

1.Self Control

2012年

2月

05日

2012.2.4  甲斐よしひろ@中野サンプラザ

「MY NAME IS KAI II 2012"MEETS"」ツアー初日のステージ。急遽降板となったkiyoに代わり、サポート・キーボードは前野知常が務めた。先にアナウンスされていた通り、前半は甲斐ひとりでの弾き語りのステージ、後半は押尾コータローとの共演、という構成だ。

見どころはやはり押尾との共演、もっと言えば、甲斐を相手に押尾がどんな演奏を披露するかということだろう。で、押尾は期待以上のスーパープレイでオーディエンスを圧倒し、終演後の楽屋あいさつでも甲斐の関係者から絶賛の声を受けていた。が、個人的にいちばん印象的だったのは甲斐の弾き語りによる「HERO」で、従来の颯爽としたイメージを一変させるような”語り”スタイルのその演奏は、この時代の気分とも、もう若くはない世代の気分ともフィットする、"HERO"像を描き出していたように感じた。

もっとも、いちばんの見どころは何かと言えば、絶好のタイミングでステージ後方に浮かび上がる深紅の真一文字であって、その鮮烈な演出が伝えるものを考えるだけでも今回のステージは見る価値があると言っても、過言ではないと思う。

2012年

2月

02日

2012.2.1. 布袋寅泰@さいたまスーパーアリーナ

 ちょうど1年前の2011年2月1日から始まった30周年ツアーのファイナルにして、布袋の50回目の誕生日を祝うバースデー・パーティー・ライブである。

 キレのいいビート感が横溢し、十分に肉体的であると同時に、洗練されて隙のないエンターテイメント・ショー。ゴージャスでありながら、フランクな気分で楽しめる。布袋が言った「宇宙一のロックンロール・ショー」という形容に異議を唱える宇宙人はいないだろう。

 この日のバンドは、中村達也(ds)、井上富雄(b)、岸利至(key)、奥野真哉(key)、LOVE(key)、中村敦(cho)という6人編成。アンコールで、高橋まことが登場した。ステージ中盤に、センター部分にリズム・セクションとの3人だけでロカビリー系のナンバーを数曲披露したのだけれど、こういうタイプの曲をかっこよくやれるのって、他にはいないよなあ。オーディエンスに思い切り歌わせて、自分はギターをガンガンかき鳴らすことでいっそうライブが盛り上がるっていうのも、この人ならではでしょう。

 

 

1.B・BLUE

2.RAMBLING MAN

3.TEENAGE EMOTION

4.RADIO!RADIO!RADIO!

5.BEAT EMOTION

6.TWO OF US

7.さよならアンディ・ウォーホル

8.ANGEL WALTZ

9.ハウリング

10.薔薇と雨

11.BATTLE WITHOUT HONOR OR HUMANITY

12.Amazing Grace ~上を向いて歩こう 

13. RUSSIAN ROULETTE

14. スリル

15.バンビーナ

16. CAPTAIN ROCK

17.MERRY-GO-ROUND

18. PLASTIC BOMB

19.恋をとめないで

20. DREAMIN'

21.IDENTITY

[ENCORE-1]

1.JUSTY

2.NO.NEW YORK

3.FULL MOON PARTY

 [ENCORE-2]

1.FLY INTO YOUR DREAM

 

 

2012年

1月

22日

2012.1.22  ASKA@日本武道館

2年ぶりにビッグバンドとの共演が実現したスペシャル・ライブ。全国の70を超える映画館でも同時中継された。

スクリーンに浮かび上がった「見上げてごらん夜の星を」を歌う少年のシルエットがそのままASKAのシルエットとなり、幕が上がって本物のASKAが登場するオープニングがまず、この日のステージは「昭和が見ていたクリスマス!?」というひとつのおとぎ話なのだろうと思わせた。実際、ゴージャスなビッグ・バンドの演奏にのって当代随一のひとりと思われる名シンガーが次々と洋邦のスタンダード・ナンバーを披露していく様は、まるで銀幕の中の出来事のようにオーディエンスを夢見心地にさせてくれる。しかし、そのステージは決して夢なのではなく、シンガーの歌に込められた月並みでない熱が着実に会場を暖めていき、その感覚がリアルな高揚をオーディエンスの一人ひとりにもたらすことになった。おまけに、歌の合間にはさまれるMCはなんともリラックスしたもので、例えば気心の知れた友人に話しかけるような調子で馬油の素敵さをアピールしたりするものだから、気持ちがすっかり寛いでしまい、だからいっそう気持ちの奥深いところまで歌がしみ込むことになった。

ところで、この日のライブの基調になっているのは、過ぎ去った日々へのノスタルジックな思いだ。「紅白歌合戦」が大好きで、なんとか最後まで見通したいといつも思っていながら、毎年途中で眠り込んでしまっていた“かつての少年”が、洋の東西も時代の新旧も、さらにはオリジナル歌手の性別も超えて、様々な名曲たちをわがものにして歌う“ひとり紅白歌合戦”状態は、それ自体がひとつのファンタジーであるとも言えるけれど、時の流れとともに消えてしまったものを単に思い出そうとする試みにとどまらない。ASKAの歌の向こうにオーディエンスが見るのは、懐かしい曲を生み出した昔の風景だけではなく、そのなかで懸命に生きていた人たちの姿であり、それは大きな喪失を経験してしまったこの国の人たちが新しい明日に向かおうとする姿に重なるだろう。つまり、この日のステージの底流にあったノスタルジーは明日への祈りに真っすぐにつながるものだ。

ステージは、プロローグではシルエットの少年が歌った「見上げてごらん夜の星を」のフルバージョンをASKAが朗々と歌って幕を閉じる。再び幕の向こうでシルエットとなったASKAは少年となり、その少年のシルエットは駆け出すようにして消えていった。おそらくは、その少年は“未来の少年”であって、こうしてまた歌は”かつての少年”から”未来の少年”へと歌い継がれていくことになった。そして、その少年が去った後のスクリーンに、映画のエンドロールのように、この日の出演者やスタッフの名前が流れて、「昭和が見ていたクリスマス!?」というファンタジックな時間が終わった。

言葉本来の意味でのスタンダード・ナンバーと、その魅力を十全に表現してみせるボーカルの素晴らしさをたっぷり堪能した2時間だった。

 

 

1.Love Is A Many Splendored Thing

2.Smile

3.My Life

4.Let It Snow! Let It Snow! Let It Snow!

5.また逢う日まで

6.天使の誘惑

7.廃墟の鳩

8.あの鐘を鳴らすのはあなた

9.木綿のハンカチーフ

10.ここに幸あり

11.MOON LIGHT BLUES

12.Stardust

13.What A Wonderful World

14.歌の中には不自由がない

15.朝をありがとう

16.思い出すなら

17.僕はこの瞳で嘘をつく

18.夢のかなた

19.BROTHER

20.月が近づけば少しはましだろう

21.野いちごがゆれるように

22.世界にMerry X'mas

23.見上げてごらん夜の星を