渡辺美里というと、なぜかリンダ・ロンシュタットを連想してしまう。だから、この日彼女が鈴木雅之とデュエットをしているのを見ていて、リンダ・ロンシュタットがアーロン・ネヴィルとデュエットしていたのを思い出した。そして、その組み合わせの妙を美里的世界に移植するとするとすれば相方は誰がいいのかを考えて、スチャダラパーのMCボーズを思いついた。それはおそらく、オリジナル・ラブやフライング・キッズの最新作での素敵なコラボが印象に残っていたからだと思うのだけれど、”スチャダラパーとのコラボというとキョンキョンみたいだから、TOKYO No.1 SOUL SETとかかせきさいだあのほうがいいか”などと、ライブを見ながら考えを巡らせた。
もちろん、その夢想はどこにも行き着かないが、それにしてもそんなふうに考えがめぐったのはおそらく渡辺美里の折り目正しい音楽世界の位相を、僕は少しズラしたくなったからだろう。しかし、美里自身は位相をズラすどころか、むしろ真摯に”渡辺美里”であり続けることによってファンの期待に応えてきた人なのであり、この日も終演後の挨拶で語った「こんな時期だからこそボーカリストの力を示したかった」という、その真っすぐな気持ちがステージを確かに強いものにしていた。
当人たちもステージ上で話していた通り、渡辺美里と鈴木雅之の組み合わせはいかにも濃いが、その濃さがすうっと空に抜けていくように感じられたのはミニコロシアムのような形状で河口湖畔の気持ちよい風が吹き抜けるステラシアターという会場のせいだろう。往年の西武球場ライブと比べれば、その規模の縮小は紛れもないわけだが、しかしそこに集まるファンの素朴な温かさと、それに応える美里の伸びやかな歌声はなんら変わらない。その揺るぎなさはそのまま渡辺美里というアーティストの揺るぎなさだ。「こんな時期だからこそ」と、彼女は歌の力を示そうとしたわけだが、結果その力を強く信じる彼女の澄んだ思いをこそ示すことになった。
強い思いのこもった歌の包容力を実感するステージだった。
M-0 オープニングSE(いつかきっと)
M-1 LONG NIGHT
M-2 ロマンティック・ボヘミアン
M-3 すき
M-4 青い鳥
M-5 LIFE
M-6 セレンディピティー
M-7 LOVE IS HERE
M-8 ロンリーチャップリン with 鈴木雅之
M-9 You are Everything with 鈴木雅之
M-10 星の夜 with 鈴木雅之
M-11 愛し君へ(鈴木雅之)
M-12 10 years
M-13 SHOUT(ココロの花びら)
M-14 人生はステージだ!
M-15 世界中にKissの嵐を
M-16 サマータイムブルース
[ENCORE]
E-1 始まりの詩、あなたへ
E-2 め組のひと with 鈴木雅之
E-3 My Revolution
E-4 my Love Your Love〜たったひとりしかいないあなたへ〜