2011.7.8  高野寛@日本橋三井ホール  

 日本橋三井ホールに来たのは、この日が初めてだ。三井グループが日本橋界隈を再開発している話はいろいろな形で伝え聞いていたが、このホールが入っている”コレド室町”というビルも、ホールがある4階および5階のレイアウトはかなり贅沢なものである。とりあえず、ライブが終わってホールから出てくると、その同じフロアに寿司屋があるというのはなんだか不思議な感じがするが、まあ、クラシックを聴いた帰りなんかには「ちょっと寿司でも食べていくか」みたいなことになるのかもしれない。

 それはともかく、この日は高野本人の言い方で言えば、4月にリリースされたアルバム『Kameleon pop』のフィナーレである。彼自身は、リリース当日に渋谷でライブをやった後、弾き語りで西日本を中心にまわってきて、久しぶりのバンド・セットによるライブだ。メンバーは、宮川剛(ds)、鈴木正人(b)、斉藤哲也(key)、田中拡邦(g)というラインナップ。日本のポップ・フィールドにおける、高野の次の世代の腕利きたちという顔ぶれだが、これまた高野の言い方に倣えば「なんでもできる、スーパーカー・グループ」ということになる。ただ、この日のライブのポイントは、その腕利きたちが生み出すスーパーな音楽の構造の巧みや精緻さを押し出すのではなく、そのもとにある楽曲自体のメッセージや歌の直接性、確からしさを伝えるためにそのスーパーな機能が十全に機能したということだろう。

 そして、例えば「アトムの夢」という曲で、いったん始めた演奏をテンポが遅過ぎるからということでやり直した場面に象徴されるように、音楽的な心地良さよりもその曲のメッセージが今いちばん有効な形で伝わることが強く意識されていたように思う。それは、「こういう世の中ではメッセージが大切なんだ」みたいな話ではなく、高野にとってのポップの有り様がいまそういう表現を求めているということなんだろうと思う。

 この日の僕の席の周りには見覚えのあるクリエイターの人たちが大勢いて、開演前にはそこここで久しぶりの挨拶を交わす光景が見られたが、そうしたベテラン・クリエイターたちが何かやろうとしている気運と、高野の年季の入ったポップは確かに共振しているようにも感じられた。