Vol.40  プリンス「バットダンス」 2011.4.23

“殿下”プリンスにとって「ビートに抱かれて」「レッツ・ゴー・クレイジー」「キッス」に続く、4曲目の全米No.1ソングとなったのが、この「バットダンス」。言わずと知れた1989年夏の大ヒット映画「バットマン」のテーマ曲である。

「バットマン」は60年代にテレビ・シリーズとして放送され、日本でも人気を博していたアメリカン・コミックだが、アメリカにおける「バットマン」人気は日本のそれとは比べものにならない。“バットマニア”という言葉があるほどのディープな人気を誇り、「スタートレック」と並んでマニアックなファンが多いシリーズだ。その映画化(リメイク版)ということだから、公開前から話題性は抜群だった。が、プリンスがこの話題性にのって売れたということではなく、むしろ「主題歌をプリンスが担当した」ということが話題性を煽った形になった。「バットマン」からイメージする古臭いアクション・ムービー・ミュージックではなく、映画のキャストであるマイケル・キートン、ジャック・ニコスルソン、キム・ベイシンガーのセリフをサンプリングで拾って、新しいストリート・ビートに作り上げたのだから。映画はおかげでファースト・ウィークエンドの興行収入にして4,270万ドルを稼ぎ出し、当時の新記録を作ったほど。このヒットによって「バットマン」の映画シリーズ化は決まったわけだから、つくづく最初のインパクトは重要だと思わせられる。

 

ところで、昔から人気があった「バットマン」だから、当然それにからんだチャート・ヒットもある。かつてテレビ・シリーズをやっていた頃、66年から67年にかけて5曲のバットマン・ソングがビルボード・シングル・チャートに登場している。そのなかにはジャン&ディーンの楽曲もあり、このテレビ・シリーズの人気の根強さがわかる。「バットマン」のオリジナルは30年代のものだが、その当時のコミック本は保存状態が良ければ3万ドルの値がつくほどのレア・アイテム。この伝統を受け継いで89年の映画版からもいろいろなアイテムがオークションにかけられており、そろそろプリンスの「バットマン」関連グッズに高値がつくようになっているかもしれない。

 

映画「バットマン」は、プリンスのプライベート・ライフにも大きな影響を与えたようだ。

「バットマン」クランク・インまでのプリンスの“彼女”はシーナ・イーストンだった。サントラ・プロジェクトでも彼女とのデュエットを行い、仲睦まじいところを見せていたが、「バットマン」に関わってからのプリンスの興味は主演女優キム・ベイシンガーに向かい、シーナはあえなく捨てられた感じ。91年にアルバム『ホワット・カムズ・ナチュラリー』のプロモーションのため来日したシーナは、プリンス絡みの質問をいっさいシャットアウト。そのピリピリしたムードから、彼女にとってプリンスがいかに大きな存在であったかがわかるほどだった。

一方、新恋人となったキム・ベイシンガーとはスタジオにこもって「スキャンダラス・セックス・スイート」を完成させた。キムのベット・トークとも言われたこの曲は、さぞかしシーナ・イーストンをカリカリさせたことだろう。しかし、このキムとの仲も長くは続かない。もともとが大人同士のおアソビといった感覚で、プリンス、キムとも「バットマン」に続く仕事に忙殺されるなか、2人の仲は自然消滅となった。まぁ、プリンスにとってはた〜くさんいる“ガールフレンド”のひとりだったということか。そのプリンスが“本気”になったのが92年のマイテとの出会いだったから、いずれにしてもシーナには勝機はなかったということになる。

 

そのプリンス、93年になって名前を放棄。シンボル・マークのみになり、“ジ・アーティスト・フォーマリー・ノウン・アズ・プリンス”と呼ばれるようになったが、その後名前を復活させ、主戦場をネット界に移したりした。「既存のレーベルでは僕の創作意欲は満たせない」というのが彼のいい分だったが、ポップス界における影響力もそれによって小さくなってしまったことは否めない。