Vol.37  ロクセット「THE LOOK」 2011.4.2

いまや“スウェディッシュ・インベイジョン”という言葉が懐かしく感じられるくらい、スウェーデンのアーティストは珍しくなくなった。かつてはアバとブルー・スエードくらいしか思いつかない状況だったことを思えば、大変な変化と言えるだろう。世界にスウェーデン・サウンドを広めるための扉を開けたのが、今回取り上げるロクセット。アバが世に出るきっかけはユーロ・ビジョン・ソング・コンテストだが、ロクセットの場合はアメリカのラジオ。そう、正真正銘、ラジオが生んだヒット・アーティストなのだ。そして「THE LOOK」は、そのワールド・デビュー曲とも言える記念の1曲なのである。

 ロクセットがアメリカでヒットした経緯についてはちょっとした伝説がある。細かいところに関しては諸説あるが、各地の電文をまとめた形で紹介すれば、そのストーリーはこうだ。

“89年の冬、デトロイトに住むある若者がスウェーデンを旅行する。当地ではその頃、10週連続チャートのNo.1などという、とんでもないヒット曲が存在していた。彼は旅行中のあちこちでこの曲を耳にして帰国。ところが、帰国後もこの曲が耳について離れない。そこでスウェーデン在住の友人に手紙を書いてそのヒット曲のカセット・テープを送ってもらった。何度聴いてもいい曲だ。若者は、地元の放送局にこのカセットのコピーを手紙付きで送った。「遠いスカンジナビアにこんないい曲がある。こういう曲を放送したらどうだ」というもの。デトロイトのFM局のDJは、早速このカセットの曲をオンエア。若者の手紙も紹介した。すると、リスナーからのリクエストが殺到し、あっという間にヘビー・ローテーションになった。これに目をつけたEMIアメリカでは即座にこの曲入りのアルバムをリリース。同時に全米規模で宣伝態勢をしいた。こうして「THE LOOK」はあれよあれよという間にヒットし、89年4月8日、ビルボード誌のシングル・チャートNo.1を飾ったのだった”。

 とにかく電撃的なヒットだった。突発的と言ってもいいかもしれない。そのヒットの足の速さを表すエピソードとして、ラジオのエアプレイの集計でチャートを出している「ラジオ&レコーズ」紙のチャート・アクションと、「ビルボード」のシングル・チャートを駆け上がるのがほとんど同時だったことがあげられる。通常、ラジオ・チャートのほうが数週間早いのに、だ。また、スウェーデンのアーティストということで、アーティスト情報が行き届いていなかったため、当初ロクセットを“ロゼット”と発音しているDJも多かった。

 ロクセットは、スウェーデンではすでに人気者だったデュオだが、アメリカでの突然のNo.1はヨーロッパ市場を大いに刺激した。逆輸入というカタチでヨーロッパに飛び火したロクセット人気はすごい勢いで各国に広がり、5月にオランダのアムステルダムで開かれた“ロック・オーバー・ヨーロッパ”というイベントでは、デュラン・デュラン、シーン・イーストン、ポーラ・アブドゥル・スティーヴィー・ニックス、ジャクソンズ、ジェイソン・ドノバンといった、そうそうたるメンバーに混じって出演を果たしている。その後も、映画「プリティ・ウーマン」のサントラ局「愛のぬくもり」を含む4曲の全米No.1シングルを生んで、世界的アーティストの地歩を固め、多くのスウェディッシュ・アクトの目標になった。ラジオが世界的ヒットを作り出すパワーがあることも証明したものだった。もっとも、そのきっかけを作ったのはひとりのリスナーだったわけだが…。

 ちなみに、リスナーがきっかけで大ヒットした例としては、シェリフの「ホエン・アイム・ウィズ・ユー」もあげられる。が、シェリフの場合、すでにバンドが存在していなかったというアンラッキーがあり、一発屋に終わっている。