2011.2.26 藤井フミヤ@国際フォーラム

 時間のかかる仕事をやり終えたところで、自分のその小さな達成を祝うために例えばシャンパンでも抜いてみたりして…、と思いながら冷蔵庫を開けてみるとうまい具合にシャンパンが冷えていたりする、というのはまさに僥倖と言うべきで、そういう場合は遠慮なくその幸運に身を浸せばいい。いいのだが、さらに藤井フミヤが幸運だったのは、そこで人生の指針に思い至ったということだ。”そうか、オレは藤井フミヤをまっとうすればいいんだ”。

 というわけで、”Sweet Groove"ツアーの最終日である。この前日、春を思わせる午後の日差しを受けてベランダに寝そべり、シャンパンを飲みながらひとつの確信を得たと語った彼のステージは確かになんとも潔いもので、それは”オーディエンスを楽しませます、そのためにやれることはしっかりやりきります”という明確な意志と、でもそこで例えば一心不乱に音にのめり込んでしまうのではない穏やかな自信と、その2つの意識がとてもいいバランスで並び立った自分の存在を素直にさし出してみせた印象だった。で、”そうか、オレは藤井フミヤをまっとうすればいいんだ”ということなのだから、その潔さこそが「藤井フミヤ」なのだろうと腑に落ちた。

”Sweet Groove”とはよく言ったもので、屋敷豪太(ds)、有賀啓雄(b)、松本圭司(key)、藤井尚之(sax)から成るSLUG&SALTに古澤衛(g)が加わったバンドのシックなグルーブは、オーディエンスを大はしゃぎさせる者ではないけれど、でもやはり自然と腰のあたりが揺れてしまう演奏が基調になっている。そして、中盤にバラードをゆったりたっぷり聴かせるコーナーを挟む構成は、おそらくは”次のライブ・スタイル”がはっきりと意識されている。ただ、いわゆるボーカルもののステージへの指向を感じさせながら、フミヤ自身はこれまで以上に踊りまくるのは、オーディエンスを大はしゃぎさせないことに対する彼なりのサービスだろう。つまり、ボーカリストが踊りまくる歌ものライブ。この日完結したツアーは、フミヤの”次”が確実に始まっていることを伝えるステージでもあった。