Vol.30  バングルス「胸いっぱいの愛」 2011.2.12

 1981年、LAで結成された女性4人組がバングルス。ヴィッキーとデビーのピーターソン姉妹に、友人のスザンヌ・ホフスを加えた3人組で活動をスタートさせ、バンド名がバングスからバングル・シスターズ、そしてバングルスに変わった83年、マイケル・スティールが加入して、CBSとメジャー契約。86年には2ndアルバム『シルバー・スクリーンの妖精(Different Light)』からのシングル「マニック・マンディ」がビルボード・シングル・チャート2位を記録。3 rdシングル「エジプシャン」が初のNo.1を獲得し、一気にスターの仲間入りを果たした。デビュー当時はGO-GO’Sと比較されるガレージ・ポップ系のグループと見られていたが、彼女たちにとって2曲目のNo.1となった、この「胸いっぱいの愛(ETERNAL FLAME)」で“本格派”として認知された。

 ヒット曲が誕生するきっかけは面白いものが多いが、この曲は特にユニークだ。バングルスがグレイスランドを訪れたときのこと。ツアー・ガイドがエルヴィス・プレスリーゆかりの品々や場所を案内し、エルヴィスの墓地を巡りながら“ここに彼の母親が眠っているんだ”とか“ここにエルヴィスは今もいる”とか説明していたら、マイケルが不思議なアクリル板をみつけた。

 

 当時の模様を、メンバーは次のように語っている。

「私たちがみつけたアクリルの箱には、雨水が半分くらい溜ってて、エルヴィスの墓の上に置いてあったの。で、“これって何?”って聞いたらガイドが“魂が眠る永遠の額縁(=ETERNAL FLAME)だよ”って答えたの。私たちが“でも、半分雨水じゃないの”って言うと、ガイドの彼は表情も変えずに“エルヴィスの永遠の魂だよ”って言ったわけ。で、帰ってきてソングライターのビリー・スタインバーグに笑い話として話したら、ビリーが“そいつは曲のタイトルだぜ。いいじゃないか”って言って、10分くらいで歌詞を書き上げたってわけなのよ」

 

 エルヴィスの墓にインスパイアされたとは言っても、内容は甘く情熱的なラブ・ソング。結局は“ETERNAL FLAME”という言葉だけをもらったということになる。後日、スザンヌ・ホフスにこのことを確かめると、思い出すだけでおかしいというくらいに笑って、シャレで出来上がった曲が自分たちの一番のヒット曲になったことが今でも信じられないと語っていた。

 

 ところで、この曲をレコーディングする際、スザンヌ・ホフスはなんとスタジオ内で全裸になっている。プロデューサーのデヴィッド・シガーソンとスザンヌが“ボーカルにもっとツヤを出すにはどうしたらいいか?”という相談をしたところ、彼女はベッドインしている気持ちを声に出したいということになって、スタジオに薄手のカーテンを取り付け、中を真っ暗にしてマイクの前にオールヌードで立ったのだ。オケは録り終わって、あとはメイン・ボーカルを入れるだけという段階だったので、スタジオにはバングルスのメンバーとプロデューサー、エンジニアだけという状況だったというが、それにしても全裸とは…。おかげで、この曲はバングルスの曲のなかでも格段にツヤっぽく仕上がったし、スザンヌはソロ転向後も女性らしいボーカルを披露している。衣装を脱ぎ捨てるだけで声の持つパワーが変わってくるなんて、それだけ人間の意識と表現の関係とは不思議なものとあらためて感じさせてくれるエピソードだ。ちなみに、スザンヌはその頃、ロマンスの真っ最中。お相手は、60年代のフォーク/ロックのスター、ドノバンの息子ドノバン・レイチだった(この時期にはTVタレント、あるいはモデルとして活動していたが、96年になってモンキーズのマイク・ネスミスと、ナンシー・ボーイというロック・バンドを率いて日本デビューも果たしている)。

 

 バングルスはその後、メンバー間の不仲が引き金になって解散。それぞれ別々の道を歩くことになったが、21世紀目前になって、突如再結成し、周囲を驚かせた。再結成の理由は「時間が経って、またみんなでやりたくなった」。要するに、栄光の日々を取り戻すための仲直りだったということか。