Vol.20  エアロスミス「ラブ・イン・アン・エレベーター」 2010.11.27

1987年の復活第2弾アルバム『パーマネント・ヴァケーション』の大ヒットを受け、多大な期待を背負って発表されたアルバムが89年の『バンプ』。その第1弾シングルとして当然のように大ヒットをが“義務づけられていた”のが、この「ラブ・イン・アン・エレベーター」だった。

 

カナダのバンクーバーで進められたレコーディングかなりなごやかだったようで、ジョー・ペリーはロールスロイス、スティーヴン・タイラーはポルシェをレンタカーでハイヤーし、川べりにログ・キャビンを借りて釣りをしたり水遊びをしたりと、リラックスした雰囲気で進められた。かくの如くハードロック・アーティストらしくないエピソードが続々と流された後に完成したアルバムだっただけに、その発表の現場の雰囲気は期待と不安が入り混じった、というものだったようだ。

 

しかし、周囲の不安をヨソに、この第1弾シングルはビルボード・チャートで最高位5位を記録する大ヒットとなり、アルバムの“トップバッター”の役目を十分に果たした。そのヒットに寄与したもののひとつが、エレベーターの中でのラブ・アフェアを映像化したビデオだ。このビデオ・クリップ、サンタモニカのホテルに実際にあるガラス張りのエレベーターを使用し、美女500人のエキストラが下から見守るなかスティーヴンの乗ったエレベーターが降りてくるという想定だったのだが、あまりにもや慈雨尼が多かったためにロケは中止になってしまった。おかげでエレベーターの中で美女と絡むシーンが多くなり、ロマンチックでエロチックなクリップが出来上がったというわけだ。スティーヴンいわく「イチかバチかのスリルを味わってるときのセックスが最高さ。タイトルがハッキリしてれば、ビジュアルもはっきりしてくるもんさ」

 

ともあれ、この曲の快進撃で勢いがついた『バンプ』は大ヒット。“バンプ・ツアー”も大成功のうちに終わった。15カ国で163日におよんだツアーで、メンバーがプライベート・ジェットに乗って飛行した合計距離は約7万5000キロ。ステージ用機材の運搬トラックはのべ83万キロを走破、という記録も残している。しかし、このツアーが特筆されるべきはその規模ばかりではない。彼らは、このツアーから社会的活動を活発化させている。

 

そのひとつはリサクルのために空き缶回収キャンペーンとコンサートをドッキングさせたこと。ツアーでまわる先の町のFM局と合同で「空き缶を持ってコンサートに来て」と呼びかけ、リサイクルの輪を広げた。これはアメリカにある“WE CAN”という団体との共同企画で、各地のFMの周波数と同じ数の空き缶を持ってきたリスナーのなかからウィナーを決め、バックステージに招待するなどのキャンペーンで、リサイクルの意識を喚起するのに役立ったという。

 

もうひとつは“フード・キャンペーン”。空き缶ならぬ缶詰や保存食品で過程にねむっているものを持ち寄ってもらい、アフリカやアジアの飢餓に苦しむ子どもたちに贈ろうというもので、こちらも大成功だった。

 

さらには、マイカーでコンサートに来るファンのことを意識し、ツアー会場でアルコール飲料を売らない運動を展開したのだが、コレは少し不評だったようだ。ファンのなかには「ビールのないエアロのコンサートなんて考えられない」とか「お題目のように“ドライブ・セーフティ”と叫ぶスティーヴンはおやじクサイ」という意見もあった。エレベーターの中でのラブ・アフェアは“セックス、ドラッグ、アルコール”のロックンロールだが、“ヘルシー、ボランティア、ドライブ・セーフティ”じゃロックンロールじゃない、ということか。

 

もっとも、当のメンバーたちは、それでも「僕たちは誇りを持ってやっている」と理解を求め続けた。いまでも反抗的なメッセージを持つヘヴィメタル・アーティストが多いなか、エアロスミスはこの時期に以前の“バッド・ボーイズ・ロックンロール”のイメージから“ヘルシーな大人のロック”へと完全に変身したのだ。これが奏功して、ハードロック/ヘヴィメタルというカテゴリーから突き抜けた、現在のエアロスミス・ステイタスがあると思う。