2010.02.27-28 甲斐バンド@新宿厚生年金会館

“NEVEREND”ツアーの最終地点。その1日目には、なんと甲斐の愛娘、甲斐名都がゲストで登場。

 というわけで、開演前のバックステージは不思議な雰囲気だった。それは緊張というのとは少し違っていたと思う。いつも結果など気にせず最高のプレイだけを心がけ、そしていつも勝ってきた猛者たちが珍しく勝ちを意識している試合前のベンチはもしかしたらこんな雰囲気かもしれない。

 

 これまでと同様、「ブライトン・ロック」から始まったステージはやはり素晴らしい。「昨日のように」までその興奮は続き、「さあ、特別な夜にしよう」と甲斐が言ったところで、その話す調子に“あれっ?”と思った。そして、甲斐名都が登場し、渋いアレンジの「恋のバカンス」はいかにもかっこよかったのだけれど、演奏が終わって彼女を紹介する甲斐の調子がやはりいつもと違う。

 

「平均年齢をちょっと下げに来ました(笑)」

 

対照的に、娘は落ち着いている。

 

「口数、少ないね。大丈夫?」

 

完全に娘がその場の空気を掴み、そして2曲目の競演へ。結果、この日のオーディエンスは「ラン・フリー」を1回半、聴くことができた。

 

 しかも、終盤のMCでは4月に照和2デイズ公演を行うことも発表されて、いろいろな意味で中味の濃いステージになった。

 

翌日のスポーツ新聞各紙の報道を見ると、やはり親娘競演の話題が中心で、照和公演発表の扱いは小さい。「照和」が「昭和」になっている記事もあった。「昭和」が終わって20年以上経ち、「照和」も遠くなったということか。

 

 それはさておき、いよいよツアー最終日。この日、ゲストはなく、ツアーをまわってきた、その調達点をバンドとして見せつけるステ=ジになるはずだった。そして、結論を言えば、改めて背筋が伸びるライブになった。

 

 ひとつには、思い切り両手を広げたような伸びやかさとしっかり腰を割って両足を踏ん張ったような揺るぎなさを備えたバンドの演奏が僕の体をそんなふうに動かしたということがあるだろう。もうひとつの理由は、もちろん甲斐のメッセージのせいだ。心の目線を上げると、自然と背筋は伸びる。

 

 終演後、ステージの背景に浮かび上がった夜景が少し下に下がり、そのせいで空いたスペースに「KAI BAND 35 th Anniversary」の文字が浮かび上がる。目線を上げて視野が広がった先に見えるのは甲斐バンドの35年の時の流れであり、ということは甲斐バンドとともに時間を過ごした人たちの時の流れだ。バンドは、その意味と価値を確認し、だからこそその流れを止めることなく、“次”へと向かう。このツアーが“NEVEREND”と名付けられていたことの理由がこうして明らかになった。